歯磨き・歯科診療の新常識は「予防歯科」!
~「予防歯科」先進国スウェーデンに学ぶ~
「予防歯科」への取り組みに差がある日本とスウェーデン
「予防歯科」を国家の一大プロジェクトにしたスウェーデン
北欧の国スウェーデンは、「予防歯科」先進国として知られています。そんなスウェーデンも、かつては、多くの人がむし歯や歯周病で歯を失っていました。その状況を重く見たスウェーデン政府は、1970年代に「予防歯科」を国家的な一大プロジェクトとしてスタートさせました。効果は絶大で、現在のスウェーデンは、世界で最も歯科疾患が少ない国と言われています。
調査でわかった日本とスウェーデンの違い
スウェーデンが「予防歯科」先進国と言われる背景に、国家の積極的な取り組みがあることは間違いありませんが、それだけではありません。過去の統計資料と、ライオン株式会社が2013年12月に実施した調査から、日本とスウェーデンの違いがはっきりわかります。その発見から、私たちがスウェーデンから学ぶことは実に多いのです。
発見 1「予防歯科」の理解度の違い
1970年代のスウェーデンで、「予防歯科」の重要性が世界で初めて打ち出されました。スウェーデンのイエテボリ大学が、むし歯などの口腔疾患と、歯科医によるプロケアや歯科治療後のブラッシングとの関連性について、大規模な調査を実施しました。その結果、むし歯予防には、セルフケアとプロケアの両方が重要であることがわかり、これ以降、歯科治療では、それまでの対症療法ではなく、「予防歯科」がより重要であると考えられるようになったのです。
スウェーデン政府は、「予防歯科」の考えを国家的な歯科医療の方針として採用し、歯科医院で「予防歯科」を受診することを義務化しました。今では、国民全員が定期的にプラークコントロールと歯科指導、治療を受けることができるようになっています。20才未満の国民は、チェックも歯科医院での治療も無料です。子どもの時から歯の健診が当たり前のこととしてとらえられ、歯の健康づくりが生活習慣として定着しているのです。
グラフ1-1は、「予防歯科」を知っていたかどうかを尋ねた結果です。「予防歯科を理解していた人※1」は、スウェーデンでは約60%であるのに対し、日本では約21%に過ぎません。また、「予防歯科を実践している人※2」(グラフ1-2)でも、スウェーデンでは約69%であるのに対し、日本では約26%と、大きく差がついています。
※1 「予防歯科を理解していた人」は、「詳しい内容まで知っていた」「ある程度内容は知っていた」の合計
※2 「予防歯科を実践している人」は、「非常に取り組んでいる」「かなり取り組んでいる」「やや取り組んでいる」の合計
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「予防歯科」という考え方を知っている※ライオン調べ
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「予防歯科」に取り組んでいる※ライオン調べ
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「予防歯科」を必要だと感じている※ライオン調べ
グラフ1-3は、「予防歯科」の考え方を伝えて必要性について聞いた結果です。スウェーデンでは「予防歯科を必要だと思う人※3」は約83%ですが、まだ浸透していない日本でも約71%と必要だと感じる人が多い結果となりました。
※3 「予防歯科を必要だと思う人」は、「非常に必要だと感じる」「かなり必要だと感じる」「やや必要だと感じる」の合計
発見 270才で残っている歯の数の違い
日本では、「年をとれば歯を失うのは仕方がない」と考える人も多いのではないでしょうか。スウェーデンでも1980年代ころまでは同じでした。ところが今は違います。70才で自分の歯が何本残っているかの平均値を比較してみましょう。日本では16.5本ですが、「予防歯科」を実践してきたスウェーデンでは21本と、大きな開きがあります。親知らずを除いた成人の歯の本数は28本ですから、スウェーデンでは、ほとんどの国民が70才になっても若い時とさほど変わらない歯の本数を維持していることになります。
70才の残存歯数の違い
※Hugoson Anders,Koch Goran:Thirty year trends in the prevalence and distribution of dental caries in Swedish adults (1973-2003)., Swedish dental journal, 2008
※厚生労働省:平成17年度歯科疾患実態調査, 2005(無歯顎者を除く)
スウェーデンの取り組みでは、過去に治療で歯を失った経験のある30~50代の患者さんが、3~4か月ごとに歯科医院で定期健診を受けブラッシングを続けた結果、その後30年間にさらに歯を失う人の数を約4分の1にまで減らすことに成功したのです。
しっかりと噛める歯を保ち、健康に毎日の食事をおいしく味わうためには、平均20本の歯が必要という調査結果もあります。20本の歯を残せるかどうかで、将来のQOL(生活の質)に差が出てくるのです。
「歯を失う」のは、誰にでも起こる老化現象ではありません。むし歯や歯周病が原因であり、それが悪化した結果、歯を抜くことになったり、歯が弱って抜けたりして、入れ歯が必要になるのです。「『予防歯科』によって、年をとっても歯は残せること」を、スウェーデンの取り組みとその成果が証明しています。
発見 3歯科医への意識の違い
スウェーデンでは、子どもの歯磨きについて、出産前から歯科医による両親への指導が始まります。また、乳児でも歯が生え始めるころから歯科医院でのオーラルケアチェックが義務づけられています。治療ではないので、子どもにとっては歯科医は“怖い”“痛い”という印象にはならず、“歯について楽しく学ぶ場所”となります。スウェーデンでは、歯科医を「頼れるパートナー」と認める人が26.3%、「好きな人・憧れの人」と考える人が16.4%にものぼりました。一方、日本ではどうでしょうか。歯科医を「頼れるパートナー」とする人が17.2%いるものの、「嫌いな人・苦手な人」と答える人が14.0%もいます。スウェーデンと日本では、歯科医に対する意識が大きく異なります。これも、70才での残存歯数の差につながっていると考えられるのです。
あなたにとって、歯科医はどのような存在ですか?
※ライオン調べ
発見 4オーラルケアの取り組みと意識の違い
日本とスウェーデンでの、オーラルケアの取り組みについても違いがあることがわかりました。
グラフ4-1から、日本では使用率の低いデンタルリンスやデンタルフロスの利用が、スウェーデンでは定着していることがわかります。スウェーデンでは「ブラッシング以外にデンタルフロスやデンタルリンスも使うのは当たり前」「どちらかというと当たり前」という考え方の人が約68%にのぼります。一方日本では、「ブラッシングだけで充分だと思う」「どちらかといえば充分だと思う」という人が51%と半数を超えます。
普段からセルフケアで活用しているオーラルケア用品においても、スウェーデンでのデンタルフロス使用率は51.6%で日本の20.5%の2倍以上、デンタルリンスの使用率は39.5%で、日本の24.0%に比べて高い割合です。スウェーデンでは、短い時間でも、効率のよいオーラルケアが実践されていることがわかります。
ハブラシ以外にデンタルフロスやデンタルリンスも使うのは
当たり前だと思う※ライオン調べ
また、「むし歯がオーラルケアで防げると考える人※」(グラフ4-2)は、スウェーデンで約81%、日本では約65%と意識にも差があり、特に強くそう考えている人がスウェーデンでは約60%と多く、日本と大きく差が開いている事がわかりました。
これらの取り組み、意識の差が発見2の残存歯数の違いにつながっているのかもしれません。
※「むし歯がオーラルケアで防げると考える人」は、「オーラルケアで防げる」「どちらかといえば防げる」の合計
むし歯はオーラルケアで防げると思う
※ライオン調べ
【調査概要】
○対象:15~69才のスウェーデン人・日本人の男女
○調査期間:2013/11/22-12/10
※分析には各国の人口構成比でウェイトをかけた値を使用
日本でも「予防歯科」の機運が高まっています。
近年、日本でも国や地方自治体が、歯とお口の健康を重要ととらえ、法律や条例の整備などを進めて「予防歯科」の考え方を広めています。その結果、歯科医院で定期的な健診を受ける人や、積極的に「予防歯科」に取り組む歯科医院などが増えてきています。
スウェーデンでの取り組みに比べ、時期こそ遅れていますが、「予防歯科」の機運が高まっているのは喜ばしいことです。
30代女性の定期健診受診率
※ライオン調べ