むし歯の原因と進行
むし歯の原因には「細菌(ミュータンス菌)」「糖質」「歯の質」の3つの要素があります。この3つの要素が重なった時、時間の経過とともにむし歯が発生します。
むし歯の原因と進行
むし歯になる3つの原因
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- 細菌(ミュータンス菌)
- ミュータンス菌は約1μm(1/1000mm)の球状の菌です。歯垢(プラーク)となって歯の表面に付着し、糖質から酸を作り出します。その酸が、歯の成分であるカルシウムやリンを溶かして歯をもろく、スカスカにしてしまいます。
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- 糖質
- 食べ物に含まれている糖質(特に砂糖)は、ミュータンス菌が酸を作る材料に使われます。間食が多い人や、キャンディーやドリンクなど甘いものをよく摂る習慣のある人は、歯の表面が酸にさらされる時間が長いため、むし歯になりやすくなります。
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- 歯の質
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歯が作られる時の環境の違いなどで個人差がありますが、エナメル質や象牙質の状況(=歯の質)によって、むし歯になりやすい人もいます。特に乳歯や永久歯が生えたばかりの子どもは注意が必要です。
丈夫な歯を育てるためには、歯の土台を作る良質なタンパク質、歯の再石灰化のために必要なカルシウムやリン、また、これらがうまく働くためのビタミン(A、C、D)などの栄養素が必要です。バランスの良い食事を心がけましょう。
むし歯の進行
むし歯の進行状態についてご紹介します。
初期むし歯(セルフケアで修復できる)
- ●初期むし歯(CO)
- まだ歯に穴はあいていないが、表面が溶かされてツヤがなくなり、白く濁って見えたり薄い茶色になったりします。
むし歯(治療が必要となる)
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- ●エナメル質のむし歯(C1)
- 歯の表面(エナメル質)の限られた狭い範囲に穴ができている状態。
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- ●象牙質まで進んだむし歯(C2)
- むし歯が歯の内部に広がり、象牙質まで進んだ状態。
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- ●神経まで進んだむし歯(C3)
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むし歯が神経(歯髄)まで進んでいる状態。
表面の穴は必ずしも大きくなく、内部で広がっていることがある。
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- ●歯根だけ残ったむし歯(C4)
- 歯冠部(歯ぐき〈歯肉〉から上の見える部分)がほとんど崩壊し、歯根だけ残った状態。
歯の根元のむし歯とは?
「根面う蝕」は加齢などの影響で歯ぐきが下がり、歯の根の部分(根面)が露出したところにできるむし歯です。
特に歯の根元は酸に対する抵抗力が弱いため非常にむし歯になりやすく、進行も早いため、歯を失うリスクが高いむし歯です。
露出した“歯の根元”象牙質にできるむし歯
根面う蝕
特長
- 歯ぐきが下がって歯の根の部分が露出したところにできる
- 酸に弱く非常にむし歯になりやすい
- 気づきにくい、進行しやすい、治療しにくいむし歯で歯を失うリスクが高い
歯の根元がむし歯になりやすい。そのワケは?
歯の構造は、硬いエナメル質と、その下の軟らかい象牙質の大きく二つの層にわけられます。歯ぐきが健康な状態にあって露出している部分(歯冠部)はエナメル質に覆われています。エナメル質はカルシウム等の無機質が96%を占めており、とても硬い材質です。
一方象牙質は、有機質(主にコラーゲン繊維)が約3割を占めており、硬さはエナメル質に比べて約4分の1未満といわれています。
歯ぐきが下がって根元が露出してくると、弱い象牙質がむき出しになり、無防備な状態に。
本来歯ぐきに埋まっている部分にはエナメル質はなく、歯ぐきが下がって根元が露出してくると、象牙質がむき出しになります。
象牙質はエナメル質に比べ、非常に酸に弱く溶けやすいのが特徴です。エナメル質の臨界pH(これ以下だと歯が溶け始める)は5.5程度であるのに対し、象牙質の臨界pHは6.0~6.2と、かなり中性に近い状態で溶け始めてしまいます。
「歯の根元むし歯」は30代から発症。 リスクは40代で急増
根面う蝕の有病率は、いくつかの研究で報告されています。東京歯科大学・杉原直樹教授らによる2016年の報告では、根面う蝕は30代で発症が見られ、その有病者率は40代で約20~30%、50代でほぼ30%、60代では約45~50%でした(歯肉退縮がある者での割合)。根面う蝕のリスクは40代で急激に高まり、以降、加齢にともなってリスクがより高くなります。
成人における根面う蝕(未処置および処置歯)有病者率(歯肉退縮がある者での割合・2016)
杉原直樹・高柳篤史監著『「サイエンス」×「超高齢社会」で紐解く根面う蝕の臨床戦略』2018.より