大人ムシ歯とは?
大人になるとできやすくなるムシ歯があります。それが「二次う蝕」と「根面う蝕」です。
「根面う蝕」は加齢などの影響で歯ぐきが下がり、歯の根の部分(根面)が露出したところにできるムシ歯です。特に歯の根元は酸に対する抵抗力が弱いため、非常にムシ歯になりやすい部分です。また進行も早いため、歯を失うリスクが高いムシ歯です。
露出した“歯の根元”象牙質に
できるムシ歯
根面う蝕

- 歯ぐきが下がって歯の根の部分が露出したところにできる
- 酸に弱く非常にムシ歯になりやすい
- 気づきにくい、進行しやすい、治療しにくいムシ歯で歯を失うリスクが高い
治療した場所に
再びできるムシ歯
二次う蝕

- 歯の詰め物と歯とのあいだに細菌が進入してムシ歯に
- より歯の奥深くに進行
- 神経を抜いていると痛みがわからず悪化しても気づかない
歯の根元がムシ歯に なりやすい。そのワケは?
歯の構造は、硬いエナメル質と、その下の軟らかい象牙質の大きく二つの層にわけられます。歯ぐきが健康な状態にあって露出している部分(歯冠部)はエナメル質に覆われています。エナメル質はカルシウム等の無機質が96%を占めており、とても硬い材質です。
一方象牙質は、有機質(主にコラーゲン繊維)が約3割を占めており、硬さはエナメル質に比べて約4分の1未満といわれています。
歯ぐきが下がって根元が露出してくると、
弱い象牙質がむき出しになり、無防備な状態に。
本来歯ぐきに埋まっている部分にはエナメル質はなく、歯ぐきが下がって根元が露出してくると、象牙質がむき出しになります。
象牙質はエナメル質に比べ、非常に酸に弱く溶けやすいのが特徴です。エナメル質の臨界pH(これ以下だと歯が溶け始める)は5.5程度であるのに対し、象牙質の臨界pHは6.0~6.2と、かなり中性に近い状態で溶け始めてしまうことがわかります。
歯冠部と根面のムシ歯リスクの比較
深川優子「Tooth Wearの視点で考える」歯科衛生士, 32(3), 51-56, 2008.より
歯の根元の「大人ムシ歯」は
リスクは40代で急増
30代から発症。
根面う蝕の有病率は、いくつかの研究で報告されています。東京歯科大学・杉原直樹教授らによる2016年の報告では、根面う蝕は30代で発症が見られ、その有病者率は40代で約20~30%、50代でほぼ30%、60代では約45~50%でした(歯肉退縮がある者での割合)。根面う蝕のリスクは40代で急激に高まり、以降、加齢にともなってリスクがより高くなります。

成人における根面う蝕(未処置および処置歯)有病者率(歯肉退縮がある者での割合・2016)
杉原直樹・高柳篤史監著『「サイエンス」×「超高齢社会」で紐解く根面う蝕の臨床戦略』2018.より